トランプ非常事態宣言の深謀遠慮 “踏み絵”を迫られた最高裁判事と連邦議員の対応は?

カテゴリ:話題

  • 議員535人と判事9人 トランプの側につくのは誰か
  • 議会での野党民主党の反撃は大統領拒否権に敗北
  • 最高裁では保守・リベラルを超え『合衆国憲法』を守る

踏み絵を迫られる議会と最高裁

トランプ大統領がどうしても“手に入れたい”国境の壁

“トランプの壁”予算をめぐり要求額の4分の1にも満たない議会妥協案を受け入れ、かつ、非常事態宣言をして議会をバイパスし“壁”予算の不足分を手に入れる。15日にトランプ大統領がとった手段を『窮余の策』とか『いんちき行為』と表現したメディアもあるが、これかれどうなるのかをいろいろ調べてみると、いやいや、大統領は法律顧問の助言を材料に、議会でも最高裁でも勝てると判断して非常事態宣言に至ったのだと感心した。

非常事態宣言への対抗策は、議会での対決コースと法廷闘争コースの2つがあるが、いずれもその勝敗は予断を許さない。100人の上院議員、435人の下院議員、そして9人の最高裁判事がそれぞれ、トランプ大統領の側につくのかどうか、踏み絵を迫られているためだ。彼らは、例えば2020年の自身の再選選挙を意識しながら、あるいは損得勘定と政治信念の狭間で決断をしなければならない。トランプ大統領の深謀遠慮によって追い込まれたと言える。

まず議会での対決コース。
議会は非常事態宣言を認めないとする決議をトランプ大統領に突き付けることができる。下院は野党民主党が多数なので近々決議することになるだろう。下院の判断を受けて上院は18日以内に採決しなければならない。上院100人の勢力分布は与党共和党が53、民主党が47だが、共和党議員の中から『非常事態宣言に反対』の声が複数上がっていることを考えると、上院も非常事態宣言は認めない決議をする可能性が高い。

しかし、大統領は拒否権を行使することができる。拒否権をひっくり返すには上下両院それぞれで3分の2による再議決が必要だ。上院では共和党議員20人、下院では55人の造反が必要になる。より抵抗が強いとされる上院でも潜在的造反者は10人とされる。極めて厳しい数字なのは間違いない。

ただし、“トランプの壁”のための非常事態宣言に異議を唱えないことは、イコール、議会の権能の自己否定と言える。アメリカの政治史のメインストーリーの一つは、権限拡大を図る大統領に対して議会側が「合衆国憲法の逸脱だ!」と激しく抵抗する物語だ。誇り高い議員、とりわけ上院議員が唯々諾々とトランプ大統領に従うのか。投票記録はYESとNOのどちらが次の選挙に有利に作用するのか。採決となれば、議員一人ひとりが信念と打算の度を問われることになる。

最高裁ではトランプ大統領が敗北する

9人の最高裁判事 ~アメリカ最高裁HPより~

法廷闘争コースについては、トランプ大統領自身が「最高裁では勝てる」と言い、メディアでも5対4で保守派判事が多数だから‥と指摘する。が、筆者は最高裁ではトランプ大統領は敗北すると予測している。

そもそも、大統領の非常事態宣言の根拠となる事実の認定を争った裁判例は見当たらないという。『壁があれば解決できる国家の非常事態』が実際に国境地帯に存するか否かを裁判所が判断しようとするかどうかも疑問視されている。アメリカの司法においても、いわゆる統治行為論的な考え方はあるし、選挙で選ばれた立法府と行政府の間で解決すべき問題とされる可能性も考えられる。様々な訴訟が提起されるのは間違いないが、それがことごとく不発に終わってしまうことだってないとは言えない。

にもかかわらず筆者が最高裁で大統領は敗北すると考える理由は、今回の件は合衆国憲法が規定する国の政治体制の根幹に触れる問題だからだ。それは三権分立と権力のチェックアンドバランスであり、議会の予算編成権限に深くかかわる。特に今回は、両院が合意した予算案に大統領も署名したにもかかわらず、直後に非常事態宣言という手段で立法府と行政府の合意をひっくり返したという経緯に鑑みて、憲法違反の疑いがあると考える。そこでは非常事態宣言の根拠の事実認定とか、特定の非常事態の存非を問う必要はない。

問われるのは『合衆国憲法』の世界観

9人の最高裁判事の保守・リベラルの色分けは、基本的には指名した大統領の党派による。が、共和党のレーガン大統領が指名したアンソニー・ケネディ判事が中道のスタンスをとったように、判事の判断は法と良心のみによる。そして、保守・リベラルが発揮されるのは主に中絶やLGBTあるいは銃規制などソーシャル・イシューと呼ばれる事案だ。

アメリカ合衆国の憲法的根幹が問われるとき、一人ひとりの最高裁判事が問われるのは『合衆国憲法』の世界観であり、それは保守・リベラルの色分けを超越していると思う。

もっと現実的に言えば、最高裁長官でもあるジョン・ロバーツ判事は、筆者がワシントン支局に勤務していた時に就任したこともあってずっとフォローしているが、彼はアンソニー・ケネディ判事ほどには目立たなかったが最高裁のバランサーとして機能してきている。ジョージ・W・ブッシュ大統領に指名されたので保守派5人の1人にカウントされるが、去年11月には「オバマ系やトランプ系、ブッシュ系、クリントン系といった判事はいない」と述べて判事の独立性を擁護、トランプ大統領に反論したことが記憶に新しい。

トランプ非常事態宣言の訴訟で、9人の最高裁判事も踏み絵を迫られることになるが、選挙もなく終身任用の彼らが問われるのは合衆国憲法の擁護者たることと判事の独立性だ。保守・リベラルの色分けがそのまま通用すると考えるのは大間違いだろう。

【執筆:フジテレビ 解説委員 風間晋】
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