「逆につらい」笑顔で呼びかける鉄道の“自殺防止ポスター”が議論に…制作意図を聞いた

カテゴリ:国内

  • 鉄道での自殺防止を呼びかけるポスターが議論に
  • 学生たちが笑顔で並ぶデザインに、ネット上では「その笑顔がつらい」の声も 
  • 「直接的な表現が難しい中で、試行錯誤の結果」

「笑顔がつらい…」 自殺防止ポスターに議論

「歩きスマホは危険」や「駆け込み乗車は禁止!」などなど、駅で見かけるたくさんのポスター。
年末のこの時期には「お酒」に関する注意書きも多くなり、最近では「飲酒による駅員への暴力防止」を呼びかけるポスターがSNSなどで話題となった。(「『それ、お酒のせい? 』12月に多発する“駅員への暴力”をバッサリ斬るポスターが話題」)

そんな中、関西鉄道協会・関西の鉄道事業者20 社局が12月20日より駅に掲出している「鉄道での自殺防止」を呼びかけるポスターに、ネット上で議論が広がっている。

「おなじ時代を生きている。 誰にも話せないつらい気持ちを、私たちに。」


腕を組んで楽しそうに笑いあう女子学生の写真に、「よりそいホットライン」など悩み相談のための連絡先が書かれたこのポスターは、関西の鉄道事業者と認定NPO法人国際ビフレンダーズ大阪自殺防止センターが共同で制作したもの。

自殺防止ポスターの掲出は2016年に始まり、過去2年間のキャッチコピーは「ひとりじゃないよ」というもの。
2016年のポスターには笑顔でダンスする女子学生たちが、2017年のものには教室で窓の外を眺めながら笑顔を浮かべる女子学生がデザインされていて、いずれも最新のポスターと同じ明るいイメージだ。


今、このポスターにネット上から「笑顔がまぶしくてつらい」「この仲間に入れていないから苦しんでいるのに」などの意見が多数寄せられているのだ。

また、この他にも「どうして女の子ばかり?」「学生以外にも悩んでいる人はたくさんいる」など、モデルの性別や年齢などにも疑問の声が挙がっている。

確かに、一人で悩んでいるときに楽しそうな大勢の笑顔は逆につらい、という意見もわからないでもないが、どうしてこのようなポスターにしたのだろうか?大阪自殺防止センターの北條達人所長にお話を伺った。

「直接的な表現が難しい中で、試行錯誤の結果」

――「大阪自殺防止センター」ではどんな活動を行っている?

・電話相談 
・自死遺族のつどい 
・SNS相談 
・ゲートキーパー(職場や学校、家庭などで自殺の兆候がみられる人に対して声をかけ話を聞いたり、専門家を紹介するなどの働きかけをする人)養成講座講演講師 
・自殺防止啓発活動

我々の団体は自殺を考えるほど苦しんでいる方のための気持ちによりそう相談活動を40年間実施しております。大切な方を自死で亡くされた方のための自死遺族のつどいも開催しております。


――ポスターにはどんな意味が込められている?

社会にこのような自殺防止の相談窓口があるのだということを知ってもらいたいという想いです。
「おなじ時代を生きている」というキャッチコピーには、苦しみは人それぞれで、その苦しみや悩みを受け入れてもらえず強く孤立を感じている人もいますし、そのような中で同じ社会に生きている者同士が支えあい繋がり合えることが少しでもできればという願いを込めています。


――笑顔の女子学生がモデルになっているのはなぜ?

駅貼りのポスターですので、様々な方が駅を利用されます。そのため自殺について直接的な表現を用いることが難しいこともあります。そのような条件の中で、どのようなことができるのか試行錯誤し、若者への自殺防止の啓発ということに重きを置いて作製いたしました。
学生にモデルを依頼しているのも若者への啓発という狙いがあるからです。協力して頂いたのが女子高でしたので、女子学生がモデルになっております。

「クリスマスや正月などで賑やかになる年末は、気持ちの落ち込みが激しくなる方がおられる」という大阪自殺防止センター。
そのため、なるべく年内に自殺防止をよびかけるポスターを掲出できるようにしているのだという。

公式サイトにはポスターのキャッチコピーと同様の「おなじ時代を生きている」をテーマとしたPR動画がアップされている。
こちらにはクラスの中で孤立している学生がひとりで思い悩むシーンが描かれており、最後にはクラスメイトの輪に入り、笑顔をこぼす様子と共に「誰にも言えない胸の内をシャボンのように吐き出せたら」「答えの出ない悩み、私たちにお聞かせください」と呼びかける内容になっている。

大阪自殺防止センターの公式サイトによると、自殺防止の基本は「友達になること」=「寄り添い・支える存在になる」ことだという。

動画では友達ができることで「支える存在」を得られたが、今回のポスターも同様に「同じ社会に生きるものが支え繋がること」を呼びかけるため、このようなデザインになったのだという。

「様々な気持ちを受け止め寄り添いたい」

――「笑顔がつらい」という声もありますが…

ひとつのひとつのご意見や気持ちもその通りだと思っております。
様々な感じ方や考え方に配慮し、試行錯誤を繰り返して作製していかなければならないと思っております。たくさんのご意見がある中、どのような表現やメッセージを伝えられるか、我々の活動は様々な方の様々な気持ちを受け止め、寄り添っていきたいという想いがありますので、どうすれば寄り添えるのか常に悩みながら活動しています。
相談してくださった方と一緒に悩んで考えていく活動だと思っておりますので、啓発活動についてもどのようにすれば良いか今後もしっかりと考えていきたいと思っております。

――ポスターを通じて、一番伝えたいことは?

ある高校生から、新学期がはじまり心細い気持ちになった時に、ポスターの「ひとりじゃないよ」というメッセージを見て、勇気づけられたという感想をいただいたことがあります。孤独を感じる社会の中で、誰かに苦しい想いを話せる場所があるということを少しでも感じていただければという想いです。
いまは悩んでいなくても、将来このような場所があるということを知っていることで、いざというときに相談機関に繋がりやすくなることもあると思います。駅はたくさんの方が利用されます。少しでも多くの方にまずは活動を知っていただければと願っております。



大阪自殺防止センターには、年間約6,000件の相談件数があり、電話のコール音が鳴る着信件数は年間約10万件を越えるという。
その中には「コール音が鳴る」だけのものも含まれており、相談しようとかけた電話を途中で切ってしまうケースもあるのだろう。

今回、デザインが議論を呼んだこのポスター、全ての人が共感できるというのは非常に難しいことだろうが、「ポスターの呼びかけに助けられた」という声もあるので、こういった活動があるということが広まることを期待したい。