「見える化」と「ご褒美」で“ピンピンコロリ”社会へ!ノーベル賞の理論活用で新しい社会保障改革

カテゴリ:テクノロジー

  • 全世代型社会保障改革は「人生100年時代」の“ピンピンコロリ”改革
  • 「ナッジ理論」使った改革とは?キーワードは「見える化」と「インセンティブ」
  • 医業との境界線を破ることが課題

第四次安倍政権の政策の目玉の一つ「全世代型社会保障改革」

この改革は今、「生涯現役社会」のため、“65歳以上のいつまで働き、いつから年金を受給するか”にスポットが当たっているが、実は、改革の半分以上をしめる部分は、別にある。

「人生100年時代」の“ピンピンコロリ”改革

*画像はイメージ

働く意欲がある人もそうでない人も、その寿命が尽きるまで、全世代の国民が、健康で質の高い生活を送ることができる改革…、言ってしまえば、自治体・地域ぐるみで“ピンピンコロリ”となるように、生活スタイルを変えましょう!というのが今回の改革の大きな部分を占めると言っていい。

また、“社会保障”と名前がついてはいるが、この改革は、ビジネスチャンスが生まれる成長分野と位置づけられている。政府の「未来投資会議」の中で話し合われているのはそのためだ。

「ナッジ理論」を使った改革…キーワードは「見える化」と「インセンティブ」

官邸で行われた未来投資会議(10月22日)

改革案の考え方は、2017年にノーベル経済学賞を受賞した行動経済学の、ある理論がベースになっている。
それは、「ナッジ理論」と呼ばれるもので、肘で軽くつつくような小さなきっかけを与えて、人の行動を変える戦略のことを指す。

アムステルダムのスキポール空港が、清掃などにかかる経費削減のため、男性の小便器の内側に一匹のハエの絵を描き、小便器を綺麗に保つことができたことが有名な成功例として知られている。人は的があると、そこに狙いを定めるという行動分析を利用したもので、ハエの絵一つで人の行動が変わり、清掃費が8割も減少したのは驚きだ。

全世代型社会保障改革においても、ナッジの理論を使って、人の選択をある方向に誘導する方策が話し合われているのだが、この場合、ナッジ理論でいう小さな「きっかけ」は、「健康状態の『見える化』」で、「誘導する方向」は、「健康の増進」ということになる。

「見える化」にはIT技術を駆使し、制度上の様々な「インセンティブ」で健康状態が継続するよう促そうという議論になっているのだ。

ウェアラブル端末を「見える化」に活用

「見える化」するためのITツールとして、最も期待が寄せられているのが、ウェアラブル端末だ。

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ウェアラブル端末で睡眠時間などを測定できるようになった今、政府はIT・ヘルスケアに関連するビジネスを促進させ、社会保障制度改革に最大限活用しようとしている。
最近、手のひらサイズのセンサーを額に付けることで、脳活動を計測できる装置が開発されたことは、経産省幹部の間でも話題になっていた。

病院に行くことなく自分の健康状態のデータをスマートフォンなどで一括管理できる世界は、もうすぐそこにある。

重さわずか30gの脳活動計測装置(株式会社NeUより)

「健康増進」に向けた3つのインセンティブ

では、「健康の増進」に向け人々を誘導するにあたり、政府はどういう制度上の「インセンティブ」をつけようとしているのか?

(1)まず、個人へのインセンティブ。数値が改善した人に『ヘルスケアポイント』を付与し、お買い物で商品に交換ができる仕組みを導入する。

(2)また、自治体(国保)や健康保険組合が、導入後に成果が出た場合には、その努力に応じて財政的なメリットを与える。
たとえば、市町村国保には、総額500億円の「保険者努力支援交付金」が支払われているが、評価の指標に住民への病気予防の実施状況を入れる。努力を怠ると交付金が減額され、その分、成績の良い国保への配分が増えるというものだ。

(3)デイサービス事業者へのインセンティブも考えられている。
ガンや骨粗しょう症、歯周病をスクリーニングし、歩くなど無理のない運動をする器具を積極的に取り入れた事業者に介護報酬を加算する。

医業との境界線を破ることが課題

政府が来年、実行計画を示し、その後3年間かけて検討することになっている今回の改革の頼みの綱は、IT技術の進歩だ。

睡眠時間から歩数、血圧、血糖値、脳波…、ウェアラブル端末によって自分の状態を把握し、時に専門家の指導を受け、バランスのとれた食事と適度な運動で健康を維持することが、病気を予防し、ひいては医療費の削減につながる。そして…、健康で働く意欲のある高齢者が増える。

課題は、新しい技術により得られる健康データが日用品として扱われることに対する医療業界からの反発をどうするかだ。
睡眠時間や歩数はいいけれど、血糖値の測定は医療行為にあたるため、データを使用する場合は医師の診断が必要といった、ビジネスにとっては軋轢、規制を破ることができるかどうか。今後3年間の議論の行方を追っていきたい。


(執筆:フジテレビ 経済部 工藤三千代)

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