“中高年ひきこもり”の子を持つ親への助言「家庭を安心の場にすることが大切」

カテゴリ:国内

  • 「中高年ひきこもり」は全国で約61万人
  • 親ができるのは、家庭を「安心の場」にしていくこと
  • 親自身の焦りや不安を吐き出せる場が必要

元農水事務次官が東京・練馬区の自宅で44歳の長男を殺害したとされる事件。

長男はひきこもりがちで家庭内暴力があったというが、警察の調べに対し、元次官は「川崎の児童ら殺傷事件を見ていて、自分の息子も周りに危害を加えるかもしれないと不安に思った」という趣旨の供述をしている。

こうした事件を受けて、「KHJ全国ひきこもり家族会連合会」は「ひきこもり状態にある人が、このような事件を引き起こすわけではない。ひきこもる行為そのものが問題なのではない。」との声明を出したが、事件後、相談の電話が急増しているという。

事件とは切り離して考えるべきだとわかっていても、全国で約61万人いると言われる「中高年ひきこもり」の子どもを持つ親が、子どもの行く末を案じてしまうことは想像に難くない。
ひきこもりの現状を打開するために親ができることはあるのだろうか?「KHJ全国ひきこもり家族会連合会」本部事務局の上田理香さんに話を聞いた。

「事件を受けて、電話が鳴りやみません」

――「川崎の事件を見ていて、自分の息子も周りに危害を加えるかもしれないと不安に思った」という趣旨の供述を聞いて、どのようなことを感じた?

まず、事件において哀悼の意を表します。

「危害を加えるかもしれない」、そういう不安を、誰にも、何処にも相談できず、自ら抱え込んで追い込まれてしまったのではないでしょうか?

事件を受けて、メディアに当家族会を紹介して頂いたからなのか、当会では家族や本人からの問い合わせの電話が鳴りやみません。
それだけ、ひきこもりのことを誰にも話せずに抱え込んできた、そういう潜在的な声が表れてきたとも受け止めています。

――ひきこもりがちで、家庭内暴力を振るうような難しい状況にある親ができることは?

ひきこもり問題は、本人も親も、誰にも相談できずに社会から孤立していくことで深刻化します。
親自身の心身が疲弊し、追い詰められると、正常な判断ができなくなることもあります。

そうなる前に、親が今の不安や焦りを吐き出すために、ひきこもり相談ができる機関とつながって、必要に応じて、第三者の手を借りながら、本人と関わって頂くことが大切です。

また、ひきこもり問題は、親が世間体を気にして、「家族の問題なのだから」と家族だけで何とかしようとしてしまうと、深刻化します。
親自身の焦りや不安から、親の価値観を押し付けたり、ひきこもり本人を追い詰めていくことになりがちです。

親が、本人に何かを言いたくなってしまうとしたら、本人と適切な距離を取っていくことが必要です。

親子関係を「安心の場」にするとともに、本人が自ら生きていくためのエネルギーが蓄えられる環境づくり、自分で決めていけるかかわりに、変えていくことが大切です。

一方、生きるエネルギーが回復していく過程で、抑え込んでいた葛藤や怒りが、暴力というかたちで表れることがあります。
暴力は人間が対象になると、反応があるためにエスカレートしていきやすいのです。

人は、反応がない無機物相手にはそんなに暴れられません。反対に受け止めてしまうことで暴力が助長されることがあります。
暴力が起こったら、その場を離れて避難し、第三者の手(場合によっては保健所や警察も)を借りることも必要です。

また、暴力沙汰の時こそ、第三者が介入しやすいタイミングともいえます。

そういう意味でも家庭の中で抱え込んで、家族の中だけで解決しようとしないようにする。そのためにも外部機関とのつながりは大切なことと云えます。

親ができるのは、家庭を「安心の場」にしていくこと

――暴力などの危険性はない「中高年のひきこもり」に対して、親ができることは?

上記にも記しましたが、家庭を「安心の場」にしていくことです。

親自身の焦りや不安から、家庭内でも、ついつい「働かせないと」「自立させないと」と親の期待を押しつけがちです。

ただし、本人は、「働かなければ、自立しなければ」と重々わかっていても、今はそれができないから苦しみます。

できない自分にいらだち、自責感を深めます。
周囲の叱咤激励がプレッシャーとなったり、分かってもらえないという感情が、家族関係を悪くしてしまう場合も少なくありません。

まずは、本人にとっての興味・関心、気が向くこと、楽しいこと、好きなこと、本人にとっての「心地よい」感覚、感情を、家族は大切にしましょう。

例えば、家のお手伝いをしてもらったら、「ありがとう」という感謝の気持ちと共に、大切な家族の一員として声を届ける。
本人のエネルギーが回復するための日常的な環境づくり(本人が批判されず安心して自由に過ごせる環境づくり)を心がけていただきたいと思います。

親自身の焦りや不安を吐き出せる場が必要

――「中高年ひきこもり」の子どもを持ち、思い悩む親にはどのような支援が必要?

ひきこもりとは「自ら人間関係を遮断せざるを得ない状態」です。

人間関係を遮断せざるを得ない背景には、様々な要因が複雑に絡み合っています。
ですから、まず家庭の中で、人との関係性を回復していくことが大切です。

ひきこもりの苦しみとは、他者からの傷つき、対人恐怖、罪悪感、自己否定感、さまざま苦しみが絡み合っています。
そして、ほとんどのひきこもり本人に見られるのが、自己肯定感や自尊感情の著しい低下です。

関われるのが家族であるからこそ、家庭が安心の場になること、一度社会から外れても、家族の一員として、自分が受け入れられる場、等身大の自分でいられる「安心・安全の場」が家庭内にあることが大切だと思います。

もちろんご家族にとっては、そこに様々な思いや葛藤が生じます。だからこそ、家族が抱え込まないことが大切です。

本人が動けないときは、家族が様々な支援機関や家族会とつながって、家族全体が孤立しないようにすることです。
ひきこもりに対する理解を深め、距離感や関わり方を学ぶ。また、親自身の焦りや不安を吐き出せる場が必要です。

そして、家族が安心して困り事を相談できる場、安心して地域社会の中で出かけていける場を、行政や支援機関が当事者団体などと連携しながら整備していくことも必要です。

――「中高年ひきこもり」の子どもを持つ親が、ひきこもりから脱出させた成功例は?

親自身が、親の力だけで脱出させるのは困難が生じやすいです。

家族会やひきこもり相談機関とつながって、適切な関係性を学びながら、親が疲弊しないように本人を見守りつつ、親自身も自分を癒すこと、楽しむことを大切にしてもらいたいと思います。


――では、ひきこもりから脱出させるためにはどのような対策が必要?

「働くことはイヤではない。でも昼休みに何を話せばいいか分からない。昔のことを問われたら固まってしまう」こういう恐れを持っている、ひきこもり本人がいました。

就労や社会参画以前に、家庭以外にも、自分の居場所を持ち、安心できる人間関係を回復していく必要があります。

「自分がいつでも行ける場所がある」「自分と似たような境遇の人と出会える場」「働いていないことが白い目で見られなくて済む場」。
本人にとって安心できる場が、外へ出かける一歩を支えます。しかし、そういう場が非常に限られているのも現状です。

中高年になればなるほど、ますます、気兼ねなく行ける場は減少します。

年齢によらず、また障害の区別なく、本人が安心して出掛けられる場、他者との関わりや交わりを持てる場、何らかの役割を持って貢献できる場など、本人のニーズに合った居場所の整備は、社会全体の喫緊の課題であると考えます。


今回、取材した「KHJ全国ひきこもり家族会連合会」本部事務局の上田理香さんは「ひきこもりに対する価値観」についても触れていた。

「『ひきこもり=悪いこと』という価値観に縛られてしまっているご家族も少なくないと思います。ひきこもることそのものは、特段、悪いことではありません。一部の小説家や漫画家のように、ひきこもりながらでも、生計を立てている人は昔からいました。
ひきこもることそのものではなく、ひきこもることで生じる困りごとに対して、様々な手を携えながら向き合っていくことが大事だと思います」

ひきこもりに対してのステレオタイプの価値観を変えていく必要があるとともに、家族だけが抱え込んでしまうような状況は変えていかなければならないだろう。

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