“家賃滞納”の問題から垣間見える全世代的な家族関係の希薄さ

カテゴリ:暮らし

  • 家賃を滞納しても世の中のせいにして謝罪しない現状
  • 部屋を借りられない、滞納した高齢の親を見捨てる子どもたち…
  • 太田垣さんが衝撃を受けた20代男性のケースとは?

「自分は家賃滞納なんかしない」賃貸の人は、そう思っている人も多いだろう。
 
しかし、そうは思っていても、何かのきっかけで“家賃滞納”という事実を突きつけられるかもしれない。
 
前回は、家賃滞納のリアルな現実について教えてもらった。今回は、司法書士で『家賃滞納という貧困』(ポプラ新書)の著者でもある太田垣章子さんに、今、家族関係の希薄さから見える“家賃滞納”の問題について聞いた。

家賃を滞納しても謝らない 

家を借りるとき、もちろん身分証以外にも、「連帯保証人」が必要とされる。親や兄弟姉妹、親戚など身近な人を連帯保証人にする人が多い。
 
もちろん、借主と連帯保証人が常にコミュニケーションを取っていれば、家賃滞納という事態を避けられる可能性はあるが、最近はコミュニケーションを密に取っていることも少ないという。
 
さらに太田垣さんは、「16年間やってきた中で、はじめは家賃保証会社をあまり聞かなかったのですが、今は利用している人は多い」と言う。家賃保証会社は、賃借人が家賃を払わないと賃借人の代わりに大家に対して家賃を払う会社。いわゆる、連帯保証人のようなもので、家賃保証会社は本人に催促して家賃を回収していく。
 
最近は家賃を滞納した人の対応に、以前とは違う変化があるという。
 
「昔は、自分の子どもが家賃を滞納していたら、連帯保証人でなくても親が飛んできて『すみません!』と謝罪していましたが、最近は『クビにした会社がいけない、収入が低いからいけない』、親は『私は関係ない』など、謝罪の言葉を口にしないのが現状です」

子どもに見捨てられる高齢者 

そんな家賃滞納の中で大きな問題となっているのが子どもに見捨てられる高齢者。今の高齢者は、高度経済成長を経験し、努力すれば結果が出るという時代で、頑張って家を買おうとする人が多かったという。だが、そんな時代を生きながらも現在も賃貸であるということは、どこかで何か失敗をしてしまった人だと、太田垣さんは考えているという。
 
そのため、そういった家庭は経済的な余裕がなく、子どもたちも大変な思いをしている人も多くいる。こうした経験からか、今は「親を捨てる子ども」が増えていると指摘した。それは、家賃トラブルの現場でも体感し、「高齢者の賃借人の家賃の問題に対して、家族の協力が得られるケースは100件中1件ほど」だと太田垣さんは話す。
 
「今、ある物件の建替えの立ち退き交渉をしています。その物件では家賃をしっかり払ってくれている人たちです。築年数が40年以上も経っているので、引っ越してくださいと交渉をしているのですが、そこに住んでいる方々の多くは高齢者です。引っ越しには同意してくれたのですが、高齢の彼らに貸してくれるところはないんです」
 
大家たちは、孤独死による事故物件の警戒や、認知症、家賃滞納などを考え、なかなか高齢者に家を貸すことはないそうだ。
 
「だからこそ、お子さんの協力が必要です。例えば、高齢の親を一人で住まわせるけど、しっかりコミュニケーションを取りますと約束したり。ですが、お子さんの協力も得られないことの方が多いです。そうなると、なかなか高齢者は家を借りられません。交渉をしている物件では、70代の高齢女性の引っ越し先が見つかっていません。その女性の娘さんに協力をしてほしいと連絡を取っていたのですが、いまだに反応がありません」

家賃滞納した20代の男性は… 

高齢者に家を貸すことを渋る大家が多いということを、今の若い世代もしっかり頭に入れておかなければならないと太田垣さんは言う。
 
「今の若い人たちは何十年ものローンが組めないと、家の購入を諦めたり、嫌な隣人が来たら引っ越したいから賃貸、と賃貸を選ぶ人が多くいます。しかし、賃貸の状態がずっと続くと、自分が年老いたときに借りられなくなるかもしれません。収入も年齢と共に変わりますから、家賃を払い続けることができるかも疑問です。家賃の低い家に引っ越そうにも、高齢になればなるほど借りにくくなります。もちろんこれは、法律や行政が変わらなければならない面もありますが、長い目でしっかりと考える必要があると思います」
 
また、太田垣さんは著書の中で、家族関係の希薄さを垣間見るある衝撃的なケースを紹介している。
 
家賃を滞納し続けた20代男性と連絡が取れなくなったため、両親に連絡をしてみたところ「便りがないのは良い知らせ」と全く関わらなかったが、この男性は部屋で餓死していたという。慣れない土地で助けを呼べる友人もなく、親にも助けを求めることができなかったのかもしれない。
 
この男性のケースは、親たちも経済的に困窮していたということがあげられるが、餓死せざるを得ない状況まで追い詰められていたことに、太田垣さんはかなりの衝撃を受けたという。
 
高齢の親を見捨てる、自分の子どもを見捨てる、など、家族関係の希薄さは世代を問わずに蔓延しているのだ。

滞納しないようにするにはどうすればいい? 

家賃は毎月のことでもあり、毎月の支出の中で一番大きい固定費。大きいからこそ、忘れないものだが、意外とそれが落とし穴だと太田垣さんは言う。
 
「特にギリギリで生活している人にとっては、家賃を払わないと生活が楽なんです。家賃分を自分がしたいことなどに回せますから。最初はドキドキしたり罪悪感もあったりするんですが、お金の催促ほど難しいものはないですよね。ビジネスとしてやっている大家さんは催促できますが、大半の大家さんはしつこく催促しません。そうすると、滞納した人は2ヶ月、3ヶ月…と催促されないことをいいことに、滞納していきます」
 
裏を返すと、住人たちとしっかりとコミュニケーションを取っている大家さんはあまり滞納されることはないという。
 
「昔の大家さんは“親のようにお節介しながらフォローする”存在でした。挨拶したり、言葉を交わしたりして、住人の生活状況を把握したり、信頼関係を築いていましたが、最近は管理会社が間に入り、直接コミュニケーションを取ることがなくなりました。信頼関係がないと、家賃の滞納はしやすいです。家族関係だけでなく、人間関係も家賃滞納の根本にあります」
 
では、家賃滞納しないために日頃からできることはあるのだろうか。
 
「厳しい収入などの面もあり、一概にとは言えませんが、基本的に家賃を払わない人はお金にルーズです。消費者金融が身近になったり、ATMで簡単にキャッシングできるようになったり、そのお金が借金なのか自分のものなのか曖昧になっている人が多くいます。
 
そのため、日頃から夫婦や家族の中でお金の話をちゃんとできる環境を作ってください。オープンにお金の話ができれば、お金の使い方も引き締め方も見えてきて、家賃滞納にまで至ることはないと思います」
 
自分はそうならないと思っていても、自分の親や兄弟姉妹がいつ家賃滞納という事態に陥るかわからない。経済的な理由だけでなく家賃滞納になってしまう他人事とは言えない出来事が誰にとっても身近であることを考えなければならない。


太田垣章子
章司法書士事務所代表、司法書士。30歳で離婚後、シングルマザーとして6年にわたる極貧生活を経て、働きながら司法書士試験に合格。登記以外に家主側の訴訟代理人として、2200件以上の家賃滞納者の明け渡し手続きを受託してきた家賃トラブル解決のパイオニア的存在。

『家賃滞納という貧困』(ポプラ新書)